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呆然として、その名を呟く。
何故彼がここにいる?
「どうし…」
「どうして!!」
女が…シャインが尋ねる前にアニエスが叫んだ。
「どうして!!こんなっ…!!」
ギリギリと歯をくいしばり、うめくようにアニエスは繰り返す。
シャインの身体にはもう幾ばくの命しか残されていなかった。
身体の中の命を支える核が尽く破壊されていたからだ。
それを認識したアニエスの身体から体温が失せた。
これではいくら治癒の術に秀でた自分でも手の施しようがない。
「何故だ!?どうして!!」
抱き寄せた腕に力をこめる。
冷たくなりつつある身体に体温を与えるように、アニエスはシャインの肌に自分の身体を擦り付ける。
触れている全ての部位から生気を送り込む。
「…よせ…アス…分かるだろう…もう…」
「うるさい!!認めない!!」
術をどうにか破ってここにたどり着くまでに、アニエスは力を消耗しすぎていた。
生気を送り込もうとしても思うようにいかない。
早さこそ鈍ったものの、依然命はシャインから離れていく。
「アス…アス…あいしている…」
シャインの囁きにアニエスは息を止めた。
ハッキリと、シャインがそう口にした事がない言葉だったからだ。
「…っ!!愛さなくたっていい!!死ぬなっ…!!」
冷たい身体から身体を離す事なく、アニエスは叫ぶ。
体温を取り戻そうと、シャインの身体中を手でこすり、どうしてと何度も呻き声をあげ、そして、アニエスは気が付いた。
シャインの体内で、彼女と運命を共にしようとしている、小さな命の存在に。
彼女に殉じようとしている小さな命。
それは、その存在は、あまりにアニエスに酷似していた。
だからこそ、アニエスは総てを悟った。
何故彼女が、責務も愛する者も彼女を慕う者も捨てて、この道を選んだか。
「…まさか…馬鹿な……」
その瞳の奥に光る暗い炎を、シャインは霞む視界に見た。
「すまない…すまないアス…」
もう力の入らない手を懸命に伸ばして、アスの髪をそっと撫でる。
「それでも…おまえを…あいしてる…」
声は益々掠れていた。
呼気混じりの声でシャインは懸命に伝えようとする。
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