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どこか
優雅に犇めく人々
品良くざわめく大ホール
その中を
俺は
黒の正装で
グラスワインを片手に
流れに沿って辺りを散策する
『あ~あ~
こちらヴィッツ
聞こえるか~』
と、
ノイズ混じりの
大層やる気のない声が
襟元に備え付けられた小型マイクから聞こえてくる
音量は
蚊の鳴く程度で
本人以外は外部の音に紛れて
まず、聞こえることはないだろう…
俺はあえて返事をするような内容でもあるまいと
そのまま…
『あ~の~…ま~…
多分、聞こえてまちゅね?
あ~…
聞こえてんたら返事しようよ~
シカトはね、うん、良くない
良くないよ~
だから
ま~とりあえず…ね~…
へ~ん~じ~』
と
再びマイクが鳴る
本来なら
二、三、文句を言ってやりたいところではあるが
場面柄、オレはそれに対し
指で二回マイクをはじいて返事をする
「あら、セドリック様
どうなさいましたの?
急に怖い顔をしてしまって…」
燃えるような赤髪に猫のような尖った三角の耳の
煌びやかな衣服の女性が心配そうに此方を覗き込んでいた
「人を呼んで参りましょうか?
もし
気分が優れないのでしたら…」
俺はすかさず
「いえ
慣れない場に緊張してしまって」
「あぁ
わかります、私(ワタクシ)もこういった場面は初めてで…
何か粗相をしてしまわないか今もびくびくしと…してます」
赤髪の女も若干すがるように同意してきた
が、勿論こんな所でこの女と田舎話をしている余裕なんて俺には無い
「あははっ
では僕は少し端の方で休んできますね」
俺は
繕った笑顔で返事を返すと逃げるように壁際に向かう
そりゃあ
ブツブツ独り言を話したり
ましてや声を荒げたりしたら
まぁ…注目の的…だよな…
『あ~…の~…
聞こえてんなら~…』
また…
コイツは…!
「ウッセェな!
合図したろ!
空気読めや!」
襟元を掴み
極力マイクを口に近づけ
精一杯の小声で声の主に怒声を飛ばす
『え?
ウソォ?いつ?いつ?』
「いつでも良いだろ!
つか、声だせねんだから…」
『あ~…』
……。
コイツは…
拳を固めるも
先ほどの女性と目が合い
慌てて拳を緩め、笑顔で会釈
あ~…
ストレス溜まるわ~…
「で?
この後の指示は?」
腕組みしながら
壁にもたれ
少しだけの力を抜いてみる…
まぁ
気休めにもならなんけどな
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