扉。

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春がどんどん近づいてきた暖かい日のことだった。 お母さんが私のことを近所の公園に連れて行った。小さいころの日課だった。 その日もいつものように公園に行ったけど、お母さんは知らない女の人の元へ歩み寄った。知らない女の人は私を見ると『こんにちは。未来ちゃん』と言った。私は自分の名前を知らない人に呼ばれたので、衝撃的だったことを覚えている。 『未来?この人はお母さんのお友達よ。挨拶しなさい』 『……こんにちは』 女の人は優しく笑うと、これから仲良くしてほしい子がいるの、と言った。女の人は砂場で遊ぶ一人の子を連れてきて、私と向かい合わせた。 『永至、この子は未来ちゃん。これから仲良くしてあげてね』 『初めまして永至くん。未来と仲良くしてね』 永至は私を真っ直ぐ見つめて慣れたように名前を呼んだ。 『みらい』 私はまだ舌足らずで、小さくゆっくりと 『え、えい、じ……えいじ』 囁くように言った。 永至の目は、やっぱりずっと私の目を見ていた。
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