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再び田島へ視線を戻すと、にっこりと笑って仁科は言った。
「それじゃあ「ミセス」のレギュラーコーヒーを」
「ミセス!?馬鹿言うな。ここから無駄に15分はかかるぞ。コーヒーならそこの自販機に売ってるだろ!」
仁科の要求に、田島が目を白黒させながら反発した。
ミセスとは最近できた24時間オープンのコーヒー専門店で、田島の言うとおり、署から行くと車でも15分はかかるという微妙に離れた所にある店だ。
なんだかんだで泊まりがけなのは当人でもある田島も同じである。
寝不足で落ちた体力を無意味に消費したくないようで、しきりに自販機のコーヒーを勧めて来る。
田島の予想通りの反応に、仁科はとっても残念そうな顔を作ってうなだれて見せた。
「そうですか。残念です。ミセスのコーヒー好きなんですが・・・。しょうがないですね。遠いですもんね。しょうがないなあ」
「お、お前、この間そこの自販機のブラックコーヒーは世界一だとか言ってなかったか?」
「そうですか?好みが変わったんですよ。疲れたなあ。おいしいコーヒーが飲みたいなあ」
「わかった!わかったよ!」
こうなっては書類を作ってもらっている田島はどうしても分が悪い。
低姿勢で粘る仁科に負けて、田島はついに要求を承諾した。
基本的に、いい人なのである。
くす、と笑って、「じゃあお願いします」と言って、仁科は気分転換のための準備を始めた。
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