黒と白

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その日は、暖かくて天気が よくて気分的に母をベランダに 連れ出す。 「母さん、陽向ぼっこせん? 暖かいよ、外」 なんだかんだ俺は母さん子だ。 「ほら」 タンポポを摘んでもっていく 「それ、なあに?」 瞬間、心がざわざわした 「タンポポ。ほら黄色の、春に 咲く花よ?」 苦い顔をして微笑んでみせる母。 逸らし続けた「今」から 凄く逃げ出したくなった。 「見える?」 「うん、ぼんやり」 「色は?」 「白黒…」 「形は?」 「小さくてぼやっとしか。」 目を凝らす。 「貸して」 そういってタンポポを手にとり じっと見る母。 本当に見えないのかと絶望 した、不安になった けど少しちくりとしただけで 動揺はなかった。 俺は自分が目を逸らしてた こと、気づいてた 「そっか、じゃあ画用紙に絵を 書こーか?」 「うん」 そう言って、笑う母と外に 出たのは、それが最後だった。 .
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