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暫くすると痛みは和らいでいく。
身体の震えも収まり、ゆっくりと愛凪の翼は背中へと戻っていく。
身体に戻った翼は痣のように肌の一部となる。
白い彼女の肌に漆黒の罪人の証は異様なまでにくっきりと目立つ。
「時間がない‥。」
痛みが退きながら、彼女はそっと呟いた。
最近、確実に烙印の力が強くなっている。
それは確実に彼女を蝕んでいた。
“烙印の日”は近い。
ギュッ″
愛凪は痛んだ胸元を強く握る。
「今度こそ自由に…」
彼女は今までどれ程、自身の死でこの呪縛から逃れようとしたことか。
だが、もう逃げないと決めていた。
1つの願いのために‥。
その願いを叶えるまで自分はまだ烙印に負ける訳にはいかない。
彼女はさっきまで魔物がいた場所を見つめる。
その場所には僅かに魔物の塵があった。
「ご‥‥。」
言葉に出してはいけない気持ちを押し込める。
仮にも“今は”天使なのだから、その言葉は許されない。
しかし、彼女の中には半分は闇の国の住人の血が流れている。
魔物といえど、闇の国に住むもの‥。
彼女はその場所に一輪の花を添える。
「どうか‥優しい神の元へと。
私はどんなに願っても無理だから‥。」
漆黒の天使は永久にその呪縛から逃れることは出来ない。
永久に優しき場所に行くことは許されない。
流れる時間は彼女を蝕むために存在している。
次に愛凪がその場所から立ち上がるとき、
最早、その顔には何も無かった。
神に愛されなかった自分が天使を名乗るがどれ程罪深いかは愛凪が一番理解している。
でも、彼女は自らが選び天使になった。
今、彼女は間の国の地に立つ。
間の国の黄色の月明かりが美しく彼女を照らしていた。
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