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〔1〕
「何だよ、こいつもただの魔物かよ」
森の中で青年は魔物の血に塗れながら、頭を抱える。
魔物には、僅かに生きがある。
「お前の主人の魔族はどこだ」
手に握られている銃口は容赦なく、魔物の額に当てがわれる。
情報を聞き出すまでは、この魔物を消す訳にはいかない。
「誰が貴様のような“人間”に主の場所を教えるか!!」
この魔物のは、人に近い形をしている。
言葉も使えるところから魔物のとしての強さはそれなりだ。
「そうか、それならお前に用はないから」
ダンッ″
青年は引き金を弾いた。
「お前は俺の“家族”の土地を汚したからな」
魔物のはゆっくりと消えて、跡には塵だけが残る。
青年の瞳には、揺るぎない殺意があった。
青年の名は、“棗(ナツメ)”。
間の国に住むもの。
細身の長身ながらもがっしりとした体格。
顔立ちははっきりとしていて、髪は茶色の短髪。
男らしいと一言でも言える欠点の見当たらない容姿。
「奴はどこにいるんだ!?」
焦りと苛立ちから頭に血が上る感覚がする。
ここ数日“奴”の気配に近いものを追っているがことごとく外れている。
こうしている間にも皆の命が危険に曝されていると思うと自分の無力さを嘆かずにはいられなかった。
不意に静かなものに何者かの気配がする。
しかも、棗のいるすぐ近くだ。
「誰だ?!」
気配目がけて銃弾を放つが当たった感覚はない。
新手かと思って、更に強い力で銃を握る。
「いきなり撃つなんて乱暴な人ね」
ふわり″
そう言って1人の少女が軽やかに風に舞うように可憐に森から出てくる。
少女の姿が目に入ったときに棗の動きが止まる。
『まさか‥。そんな筈がない‥。』
自分の中に湧き出た感情を必死で抑える。
その少女は綺麗な顔立ちに白い肌。
純白の胸元に大きな1つのリボンのついたワンピースを着ていた。
その姿で棗はすぐに少女が何者なのかわかった。
こんな姿をして、間の国にいるのは1種族だけだ。
「お前、天使か‥。」
棗がそう聞く、少女は静かに笑う。
「そんなところよ」
そう言って静かに微笑んだ表情は、彼の記憶の中にしかいない自分にそっくりだった。
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