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〔2〕
愛凪はそびえ立つ木々を押し退けて、伯爵の気配のする方へと急ぐ。
今までの気配とはちがう重々しく身体にのしかかる重圧は、魔物には放つことが出来ない力だろう。
木々を抜けた先に野原のような場所に出た。
愛凪を待っていたのは、1人の男。
「最初に我が元へたどり着いたのは若き天使か。」
威厳のある顔立ちに黒い燕尾服と帽子を身にまとい、40代前半ぐらいの外見のその男は愛凪を見ると眉間にしわを少し寄せる。
その表情に背筋が凍り付くような感覚に陥る。
その表情はほんの数秒で終わり。
愛凪の姿を捕らえおわるとしわを緩ませ、温厚な顔を彼女に向ける。
一瞬、その顔に彼が魔族なのか疑いすら抱いてしまう。
しかし、紛れもなく彼の身体から発し出される威圧感は真実を物語っていた。
「貴方が伯爵?」
「いかにも、 我が名はメティス。 魔族の術士だ。 お前の名は?」
「あいにく、魔族に名乗る名は待ってないわ。」
段々と伯爵の威圧にも慣れ、気持ちを落ち着かせようと手を強く握る。
焦りは、一瞬の判断を鈍らせる。
目の前にいる男は今まで戦ってきたもの達と明らかにちがった。
「何故、突然気配を放ったの?」
当たりに立ち込める伯爵の魔力の量は、ここ数日の比にもならない。
愛凪の尋ねに伯爵は冷笑をする。
「退屈だからだ。 そなた達が鈍過ぎて我にたどり着くのがいつになることか。
せっかく、導いてやったのだから楽しませておくれ‥。 純真な血を持つ天使よ」
魔族に人間の力は適わない。
魔族と対等にやり合うことが出来るのは同じ魔族か天使の血が流れるもののみ。
「さぁ、その無垢な天使(オマエ)をどう汚してやろうか‥。」
そう言うと伯爵はゆっくりと動き出す。
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