第四章「故郷へ」

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フリックが書類に目を通していると、ノックの音が聞こえたので、返事をした。 「入って良いぞ」 その声でビクトールのよだれをすする音が聞こえた。 あの短時間に寝ていたのか……。 気楽なやつめ……。 心の中で苦笑する。 ドアを開けたのは、ポールだった。 ポールは今日の報告書をだしにきたはずだ。 「おう、もうそんな時間か」 ビクトールはそう言うと部屋をでていった。 ポールがくるのはいつも夕方なので、その時間帯からビクトールはレオナの所で酒を飲んでいる。 フリックはあまり酒に良い思い出はないので、飲みはするが少しだ。 「報告書か?」 「はい、それともうひとつ……」 ポールは言いにくそうに報告書を渡してきた。 「なんだ?」 報告書を受取りながら尋ねると、ポールは困ったような顔を浮かべた。 *********************** 戦の気配が近づいてきた。 戦時ではない今は人手は余るほどだ。 しかし、ひとたび戦が始まると人手は足りない。 今のうちに人手を増やしておかなくては間に合わなくなる。 近くの村を周り募兵をするか……。 そう酒の入ったグラスを片手にビクトールは考えていた。 戦の事を考えるのは好きだった。 酒の肴だともいって良い。 「ビクトール」 フリックが隣に座ってきた。 もう書類の整理は終わったのだろう。 フリックはあまり酒を過ごさない。 フリックは酒で失敗はしたことは無いはずだ。 しかし、フリックが酒を飲んでいると、女が寄ってくる。 ここまでは良いのだが、何故か寄ってくる女が全員酒豪か酒乱なのだ。 フリックはそのせいで少し臆病になっているのだ。 それに、フリックはまだアイツの事を忘れてねぇんだろうな。 ビクトールは心の中でつぶやいた。 「ビクトール、さっきポールからリオウの事で相談を受けた」 レオナから酒を貰いながらフリックは言った。 「どんな?」 「滝から落ちたのはリオウだけじゃ無いらしい。 リオウの友達らしいが、もしかしたら生きているかもしれない……」 「だから、探してくれってか?」 「あぁ、探すようなら一緒にリオウも探したいとさ」 「リオウを連れて回るのは、ちと無理があるが探すだけならなんとかなる。 ちょうど、募兵をしようと思っていたところだ」 リオウは「とりあえず」捕虜だ。 だから、あまり出歩かない方が良い。 近くの村や街にはそのことは噂として広がっているはずだ。 ハイランド人として迫害を受けかねない。
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