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口髭が苦笑いを浮かべている、先ほどとは逆にため息をつかれる立場。老人はロビーに来るとまだ温もりの残った椅子に座り、対して若者は背を向けるように違う向きの椅子に座る。どうやらこの二つの椅子は二人の定位置らしい。座り心地も良いようだ。
「で、今回の仕事はあんた直々なのか?」
「給料はいつもの倍だ、こんな良い話は君にこそと思ってね」
「俺に、か。本当は何を考えているんだか」
「はっはっは、やはり君は鋭い。実は今回の仕事が出来そうな輩が見つからなかっただけでな、誰がやろうと成功すればそれで良いんだ」
「本心はそれか。用は業績をあげたいってだけだろ?」
「ヴィラージュが辞めた今は十人分の人材が足りないようなものだ、まぁその分君は稼げている訳だから良かったじゃないか」
「・・・」
「・・・なんだ、いくら君でも疲れ始めてきたかい?仕方ない、今回は他を当たろう」
鼻で楽しむように笑うとゆっくり椅子から立ち上がり、近くのカウンターにあるハンチングへと手を伸ばす。
しかし帽子へ手が届く前にサッと椅子を立つのはやはり若者。後ろ向きから見えるはずは無いが、老人は皺のある威厳的な目で微笑みを作った。
「引き受ける」
「ありがとうデューカス」
「だから・・・」
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