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カウンターまでやって来る頃にはまたいつも通りの風景に戻っていた、酔っ払いにしてみればどうでも良いらしい。男性はと言えばこちらに来るなり例の暗い客の隣の空席にやってくる、しかし彼は座らないでカウンターに手を突く状態で何かをひそひそと話し始めた。
一分もしないうちに暗い客は店の戸から雨降る夜へと出て行った。
「お釣り取らないで行っちゃった・・・」
「奴は今夜大儲けするから良いんだよ」
意味深く謎めいた言葉を残して彼もまた店を出るようにカウンターから離れようとした、しかしアンジェの手はしっかりと男性の服裾を掴んでいる。
「放せ」
「寒いでしょ?何か飲んで少しは暖かくしたら?」
「いや、だから俺は・・・」
「良いから座りなさい、それとこれで顔ぐらいは拭きなさいよ。カウンターもびしょびしょだし、奥で着替えて来て掃除しなさい」
「この店は客に掃除をさせるのか?」
「嫌なら良いのよ、出入り禁止にするから」
男性は鼻で軽く自嘲的な笑いをし、渡したタオルで顔を拭きながら、店の奥へ続く戸を開くたのだった。
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