変人の巣窟

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こほん、と咳払いをひとつして、沈黙を破ったのは杉山先輩であった。 ここでひとつ注意しておきたいことがあるのだが、諸君、決してさすが先輩頼りになる!とか思っちゃいかんぞ。彼こそが「オンドゥルの杉山」である(オンドゥルが何かわからない人はGoogle先生に尋ねてみてくれたまえ)。彼は役者としては致命的だが、渇舌が悪いのである。そんなこんなでついたあだ名が「オンドゥル先輩」。 杉山先輩ははっきり言って頼りにならない。問題を解決しようとするが、騙されやすい性格が災いしてかえって問題をややこしくしてしまう。誰だ彼の純情を踏み躙ったのは。 「ええと、きみ。その、雑賀、だっけ」 「はい、僕は二年D組雑賀衛と申します。どうかどうか、この僕を演劇部に入部させていただけないでしょうか」 「あ……ああ、ええと……そうか」 おいおい三年生。 部長は不在、我々だけでは判断しかねる、その台詞が言えぬと言うのか杉山先輩。 雑賀はさらに「困ったなぁ」の顔を浮かべて苦笑い。きみの気持ちはわからんでもないが。 そこに上条くん、我の零したジュースを拭き取ったハンカチーフをかぐわしきかほりであるかのようにくんくんと匂うと(何をやっているんだきみは)、杉山先輩を押し退けてわたしを指差し、ひょろりとした体型からは想像できないくらいの大声(さすが演劇部)でこう言った。 「困りますよ、雑賀先輩。あんたぼくの先輩を奪いに来たんだな、そうでしょう。しかしそれは無駄なことです。先輩はぼくにメロメロなんです」 「断じて違う」 とりあえず否定しておいた。それにしても先輩はぼくにメロメロ!とは上条くん、やはり相当の妄想族らしい。 先輩と聞いて上条くんの指差すほうを向いた雑賀は見慣れたクラスメイトであるわたしの姿を捉えて「あぁ」と柔らかく笑った。 「加納さん、そういえばきみは演劇部のスターだったね」 「スターってほどではない……」 「あー、雑賀先輩!そんな目で!!そんな目でぼくの先輩を見つめてはなりません!」 「上条くんはちょっと黙ってて」 わたしがそう言うと今にも暴れだしそうな勢いの上条くんはテトリスをクリアした南雲くんに羽交い締めされた。おまけにさるぐつわでも噛ませておいたほうがいいんでないかい。
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