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あすちゃんは依然として机のしたから出てこない、杉山先輩はどこか宙を見ている、上条くんはぴいぴいなにかを叫んでいるし、南雲くんはそれを抑えるのでいっぱいいっぱい(なんだろうか?)。つまりこの状況、「判断しかねる」のひとことを説明できるのはわたしだけだ。
「えーと……今この通り部長は不在なんだよ。雑賀がどういう思いでこの演劇部にやって来たかはわからないけれど、ここは変人揃いの阿呆の巣窟。悪いことは言わないから入部なんかしないほうがいいわ」
「……うーん」
雑賀は考え込んだ。彼が一体何を考えているのかはわたしにはわからないが、多分考えている。
変人揃いの部活に青春をかけることに悩んでいるのか、はたまた部長はいつこの部室にあらわれるのかを考えているのか。とにかくよくわからなかった。
「よし」
ぽん、と手を叩くと彼は相変わらずの王子スマイルでこう言い出した。
「じゃあやっぱり僕、その部長さんが来るまで待つよ」
「そ、そう……いいの?」
「入りたいんだ、演劇部に」
彼の目は真っ直ぐわたしを見ていた。それはほら、恋の始まりとかそういう馬鹿馬鹿しいものを暗に意味するような視線でなく、なにか大きな志を語っているようなそんな真面目な目であった。
しかし、そんなに演劇がやりたいなら余所の劇団に入ることを薦めたいわたしである。
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