変人の巣窟

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死んでいたら悪いので、わたしは床の上でのびている上条くんの様子を見に行くことにした。雑賀の貞操よか今は人命のほうが大事である。それがーいちばん大事ー♪ ……上条伊織、演劇部一年。彼は先程説明したように青白い顔、体格はひょろひょろしていてまるで未だ成仏できていない自縛霊のようである。そんな上条くんが床に横たわっているのを見ると事件の第一発見者になったかのような気分になる。 そっと近づいて様子を見ていると突如足首を掴まれた。華奢というか、か細い女の子のような手がわたしの足首を掴んでいる!これは怖い! 「きゃー!上条くん生きていたのか!」 「先輩、ぼく嬉しいです!先輩はぼくを心配して来てくださったんでしょう、ああやはりあなたはぼくの運命の人!今すぐにでもぼくたちは結婚すべきなのです!!」 「きゃー!結婚しないしない!」 わたしの足首を掴んで起き上がろうとする上条くんはまるで死者蘇生の儀式を行って蘇ったかのような様子である。今の自分ならパリのディズニーランドにある「ファントムマナー」の花嫁の気持ちが分かるような気がする。 頭のなかではスピッツの運命の人がだらだら流れていて、上条くんは運命の人なんかじゃない、絶対にだと歌声を頭からかき消した。 「上条くん怖い!怖い!」 「なに、怖がる必要などありません。いずれ気持ち良くなります、ささ、人の目など気にせず……」 「きゃー!なんだその怪しい台詞は!」 「上条!!」 オンドゥル先輩の一言で上条くんはびくりとし、すぐさまオンドゥル先輩の方向を向いて正座した。どうやらオンドゥル先輩が助けてくれたらしい。オンドゥ……杉山先輩は時より頼りになる。 演技力は上条くんのほうが上だと思うのだが、先輩として慕っているのか、上条くんはなぜかオンドゥル先輩の言うことをよく聞くのであった。変人上条も素直なところがあるのである。
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