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「ご、ごめんなさい、杉山先輩」
こうやって素直にしてると可愛いのに、上条くんはどこか損をしている。彼は決してわたしの運命の人ではないが。
雑賀のほうを振り返ると、どうやらテトリスを終えたようで、わたしの視線に気付いて声を掛けてきた。上条くんが唸っているが気にしない。
「ところで部長さんってどんな人?いつ頃くるんだい?」
「あ……うん、ええと」
ここにきてわたしに部長の話題を振るんじゃない雑賀!
あすちゃんの言った言葉が頭に響く。――雑賀、部長に食べられちゃうかも!雑賀、部長に食べられちゃうかも!雑賀、部長に食べられちゃうかも!――
ああどうすればいいんだ。今のうちに説明しておいて足早にこの部から去ってもらおうか、しかし雑賀、わたしの見るところによると相当演劇がやりたいらしい。そんなクラスメイトを放っておけようか、いや、放ってはおけない。
しかし学校初のホモカップルなんかがこの部活に誕生してしまうやもしれんし、嫌々部長に食われるクラスメイトを放っておけようか、いや、放っては……。
「雑賀先輩、部長はきっと雑賀先輩を気に入ってくださいますよ、まぁぼくは認めませんが、部長がああでは仕方がない」
わたしがぐにゃぐにゃ迷っていたところに、にやにや立ち上がりながら上条くんは雑賀にそう言った。言ってしまったが最後、雑賀の瞳は希望という光で満たされたかのように輝いたのであった。
「そ、そうかな!僕、演劇部に入れそうかな」
「う、うん……」
そんな笑顔で話し掛けられると本当のことを言えません。
「ま、雑賀先輩は部長に気に入られて骨の髄まで食われるといいのです、ふふ、これでライバルがちょっと減りますね」
上条くん聞こえてます。
これからどうなるのだろうと不安になるわたし、加納那々美、これから語り部をつとめさせて頂きます。他の部員よかまともでありますゆえ、どうぞ加納の視点より話をお楽しみくださいませ。
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