Chapter.1【二つの出逢い】

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ガチャリと、鍵が開く音がした。 そして、ゆっくりとドアが開かれる。 静かなトイレに、ドアの軋む音が響く。 突然の出来事に、祐介は飛び退いて身構えた。 どんな理由があるにせよ、男子トイレに女子がいて、かつこの態度でいるのは普通じゃない。 ドアが完全に開いた。 中には確かに女の子がいた。 が、その有り様は祐介の常識の範疇を超えるものだった。 「こんにちは」 能天気な声で、女の子がお辞儀する。 だが、祐介は口をあんぐりと開けたまま返す言葉が無い。 「……驚かせちゃった、かな?」 髪は茶髪でセミロング。 一本だけ上にハネた触覚のような髪の毛が、彼女の仕草に合わせてピョコピョコ動く。 薄めの青い服には白い十字が大きく描かれており、背中には小さく白い羽飾りがある。 いくら私服制と言えど、このコーディネートは普通じゃない。 だが、祐介には些細なことだった。 それだけなら、ちょっと変わった女の子で片付けられた。 まず、彼女は浮いている。 複数人の中に入ると雰囲気が浮くのではなく、物理的にである。 彼女の足は地についておらず、数センチ浮いた状態で僅かにフワフワと上下に揺れていた。 更に、彼女は透けている。 服が水浸しで下着が透けていたわけではなく、彼女自体が半透明なのだ。 触っても、そのまますり抜けてしまいそうだ。 「ふにゅっ!? い、いきなり何をするんですかっ!」 「わ、悪い。確かめたくて」 本当にすり抜けるのか気になったので、祐介は人差し指で女の子のおでこをつついてみた。 が、女の子は奇怪な鳴き声をあげ、人差し指は彼女のおでこを感触として認識した。 実体はあるわけだ。 足がついていることと言い、幽霊ではなさそうである。 「確かめる……ああ、あなたには私が透けて見えるんですか?」 「ああ。薄気味悪いから正体を教えてくれないか」 「薄っ……まあ良いでしょう。確かに正体不明だと不安を抱くのも仕方ないです」 女の子は咳払いをして気を鎮めた。
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