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「私はアイル、使い魔です」
その言葉を理解するのに、祐介は十数秒を要した。
正確には、理解しようとした時間だ。
結局祐介には理解できず、考えるのを諦めた。
「……じゃ、俺は行くわ」
「ええっ! ガン無視ですか!?」
アイルと名乗った女の子は酷く傷付いたらしく、引き返す祐介を半泣き状態で止める。
「行かないで下さいっ! あなたは私の……希望なんです!」
「……意味分かんないから」
何だこいつは。
人として感性がずれているのはもちろん、見た目からして人である確信すら持てない。
怪しいなんてものじゃない。
「出会って三分の幽霊にプロポーズされちまったか、今日は厄日だな」
「あああ、行かないで! 引かないで!」
さらりと受け流して逃げようとする祐介の腰に、後ろからしがみつくアイル。
気味が悪い。
「やめろ鬱陶しい。幽霊にまとわりつかれるなんて、縁起でもない」
「うう……私は幽霊じゃありません。使い魔です」
しがみつくのをやめたアイルは、祐介の服の裾を申し訳程度につまんで進行を妨げていた。
「……お人好しなのかな、俺」
何だか自分が悪いことをしている気がしてきたので、渋々祐介は彼女の話を聞くことにした。
「あっ! 振り向いてくれた! わーい!」
「喧しい、その感嘆符だらけのしゃべり方をやめろ」
何が『わーい』だ、まったく。
「うっ……すみません」
両手を上げて万歳をしていたアイルは、一気にテンションを落としてしまった。
今さらだが、喜怒哀楽の激しすぎる女の子だ。
「それで、えっと……」
「まあ待て。トイレで話をすんのも何だし、場所を変えようぜ」
「は、はい、分かりました」
と言ってから、アイルはようやくここが何処だか把握したらしい。
「え、え? ここって……」
「男子トイレだが」
祐介の発言で、アイルは顔を真っ赤に染めた。
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