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既に授業は始まっていたので、祐介は身を屈めて忍び足で廊下を通り過ぎた。
アイルは、呑気に鼻歌を歌いながら、ふわふわとついてきている。
どうやら、他の人にはアイルが見えないようだ。
一体これはどういうことなのか気になったが、廊下で話し込むわけにもいかない。
屋上へ繋がっている階段を目指して、祐介は歩くスピードを上げた。
数分後。
「ああ、久々の日光です!」
屋上へ着くと、アイルは気持ち良さそうに体を伸ばした。
触角のような前髪も、右へ左へ小さく動いている。
「さて、それじゃあ話してもらおうか」
設置されたベンチに腰掛けながら、祐介は早速切り出した。
「はい。……うーん、どこから説明すればいいのやら」
「とりあえず、何でお前が透明なのかについて教えてくれ」
優柔不断なアイルを、祐介が誘導する。
「はい。えっとですね、私は使い魔なんです」
さっきも聞いたことだ。
「使い魔というのは……主に絶対服従の契約を結んだ魔物のことです。魔物以外にも、精霊や動物などに契約させる場合もあります」
いきなり凄まじい内容だ。
こんな能天気な女の子が、実は魔物でしたと言うのだから驚きである。
祐介の中では、それくらいいいかげんな感覚で話を聞いていた。
「主のことを一般的に“マスター”と呼びます。絶対服従と言うからには、マスターの命令には逆らえません。もし逆らうと、三日以内に消滅してしまうんです」
要するに、マスターに心酔してるマゾか。
鼻をほじりながら、祐介はあくびをした。
「えっと……ここまでは理解できてますか?」
「ああ、バッチリだ」
祐介は、アイルに向かって言い放った。
「お前はマゾなモンスターで、男子トイレで泣きながらご主人様を探している変態だ」
「えええええーッ!?」
酷くショックを受けたらしい。
アイルは涙目で祐介に詰め寄る。
「どう考えたらそんな結論に至るんですか! 頭大丈夫ですかァ!?」
ちょっと表現を工夫しすぎたかもしれないが、よりによってアイルに頭の中味を疑われるのは少し腹立たしい。
「あのな、俺は真面目に質問したんだ。お伽噺を聞きたいわけじゃない。そっちも真面目に話してくれないか」
「それはこっちの台詞ですよ。私は真面目に話してます」
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