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「既存の精霊や動物と契約をするのが普通なんですが、私の場合は少し特殊で。マスターが魔力を凝縮させて、一から私を作り上げたんです」
今度はもっとすごい話だ。
それが事実ならば、マスターとやらは自分一人で新たな命を生み出したことになる。
にわかに信じがたいが、アイルの目は真実だと訴えていた。
「使い魔として生まれた私は、その場で契約を結ぶことになりました。産みの親ですから、私は何も疑わずに契約したんです」
生まれて初めて見た者に懐く、動物の本能と同じなのだろうか。
祐介は、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「ですがその……マスターは荒っぽくて。私を物と同等に扱うんです……召使いじゃなくて、奴隷のように」
アイルが身震いする。
よく見ると、細い脚のところどころにアザがあった。
「あ、別に毎晩エッチなことをされてたわけじゃないですよ? やだなあ私の下半身を見て何を妄想し……ふぎゃっ!?」
全部言い切る前に、祐介はアイルの鼻をつまんだ。
もっとも、伏せたい内容のほとんどは言われてしまったのだが。
「さっさと話せボケナス」
「ううう……」
言ってからちょっと乱暴にしすぎたかと後悔した祐介だが、そこまで傷付いた印象はないのでホッとした。
半泣きではあるのだが。
「と、とにかく。休む暇も与えず激務を押しつけたり、失敗する度に暴力を振るったり……とても怖かったです」
生まれたてで何が何だか分からない中、唯一そこにいた人間を信用しようとするのは自然だろう。
最初に心を許した相手にそんな酷いことをされたのなら、傷も深いはずだ。
「こんなこと絶対にいけないんですけど……3日前に、私はマスターから夜逃げしました」
「で、トイレで泣いていたと」
ようやく話が繋がった。
「はい。先ほど言った通り、マスターの契約を破った使い魔は、3日以内に消滅してしまいます」
「3日前の夜に抜け出したわけだから……今夜でお前は消えるわけか」
それは何とも……穏やかでない話である。
ジョークで済む内容ではない。
人が死ぬのと大差ないことだ。
「そうです、だから貴方は私にとって唯一の“希望”なんです!」
祐介の胸元を力強く掴んで熱弁するアイル。
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