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「断る」
迷いはあれど、即答だった。
自分でも非情な奴だと、祐介は思った。
「そんな! どうしてですか!?」
即答されるとは思っていなかったのだろうか、アイルはまた祐介の胸元を強く掴む。
「厄介事に巻き込まれたくない。一般人として当然の思考だ。お前と契約を結べば、きっと前のマスターは俺を殺してでもお前を奪いに来るだろう」
「それは……そうかもしれませんが……」
僅かに、祐介を掴む手の力が弱まる。
「いくらでも代わりはいるだろう。他をあたってくれ」
「あなたは、マスターですら見破れない透過魔法を難なく突破した、類稀で強力な魔力の持ち主なんです」
やっと謎が解けた。
アイルが透けて見えて、他人には認識できないのはそういうわけなのか。
「……それがどうした」
「えっ?」
祐介は、敢えて冷たく言い放つ。
「俺みたいな凡人ですら、類稀と言われるほどの魔力を持ってんだ。それを上回る連中なんて、そこら中にいるさ」
「そんなことはありません! 使い魔の私には分かるんです。あなたは……」
これ以上何か言われる前にと、祐介はアイルの発言を遮る。
「とにかく、お前がどうなろうと知ったこっちゃない!」
「そ、そんな……!」
さすがにこれは嘘だった。
今宵、ひとつの命が消える。
それはとても悲しいことだ。
どうでもいいはずがない。
だが祐介には、どうしても協力するわけにはいかなかった。
他人に手は貸さないと決めたのだ。
もう後悔はしたくない。
「魔力がある自覚なんてない。性格もろとも見込み違いだったってことさ」
「そんな、そんな……」
糸が切れた人形のように、アイルは崩れ落ちた。
「大体何だ、魔力があるからって俺の危険なんか考えもせずに利用したいだけじゃないか。そんな奴に手を貸すほど、俺はお人好しじゃないぞ」
「ち、違います! 利用だなんて……」
遂にアイルは泣き崩れてしまった。
さすがに言いすぎたか。
祐介はため息をついて、気を鎮めた。
だが、考えてみればその通りではないか。
さっきからアイルは、祐介に魔力があるから必死に執着しているように見える。
少なからず、自分を利用する気に違いない。
そう考えると、祐介は同情する気すら失せてきた。
「……帰るわ。どうせ授業には出ないし」
「ま、待って下さい……!」
祐介がこの場を離れると知ったアイルは、慌てて立ち上がり、走り寄って来た。
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