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「ついて来るな!」
一度だけ、大声でそう言った。
そして、それ以降は走ることで彼女を拒否した。
階段を駆け下り、教師に見つかることなど気にも止めずに廊下を疾走する。
下駄箱で急いで靴を取る。
踵で強く踏みつけて靴を履いた。
上履きを乱雑に押しこみ、「引」と書いてある昇降口のドアを無理やり押して外へ出る。
校門を乗り越え、逃げるように学校を走り去る。
信号も無視し、決して後ろを振り返らずに。
古びたアパートの階段を駆け上がり、「上之宮」と書かれたドアを乱雑に開ける。
鍵はかかっていない。
急いで玄関へ逃げ込むと、祐介は滅多にかけない鍵を強くかけた。
逃げ切った。
祐介は、安堵のため息をもらし、玄関のドアに寄りかかった。
追いかけてきたにせよ、あそこまで露骨に拒否されればきっと諦めてくれるだろう。
呼吸が落ち着いてから、祐介は靴を脱いだ。
高校生ながら、アパートで独り暮らしをしている祐介。
それにはちょっとした事情があるのだが、それはまた追々綴ることにする。
「そういや、スクールバッグを置いてきちまったな」
ふと、祐介はつぶやいた。
別に、中に大したものが入っているわけでもないのだが。
財布は常に尻ポケットに入れるし、生徒証なんて学割以外用のない代物だ。
「やれやれ、だ」
数日間干していない布団に倒れ込み、祐介はまたため息をついた。
後味が悪い。
俺に見捨てられた彼女は、この後一体どうするのだろうか。
泣こうが喚こうが、誰かと契約を結ばない限り、今夜を過ぎれば彼女は消える。
きっと今頃、強力な魔力を持つ俺を失ったことを惜しいと思いつつ、新たな命綱を求めて必死に声をかけているのだろう。
結局、浮気者じゃないか。
なにが「契約には互いの信頼関係が必要」だよ。
契約さえできれば誰でもいいくせに。
忘れよう。
気分が悪い。
こういう時には、寝てしまうのが一番だ。
祐介は目を閉じ、十数分後に眠りについた。
その短い時間の中、アイルが侵入してくる気配は、全く感じなかった。
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