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転入生の女子が来るらしい。
教室でざわめく生徒達の会話を、祐介は耳にした。
新学期の始めと言うことで区切りは良いが、それにしたって珍しい。
ここ、姫野大路学園は、頭が良くなければ入れない名門校だ。
よほどの才女か、よほどのお嬢様か、その両方である。
名門校によくある、裏口入学。
近頃は減ってきたが、編入するならば十分にあり得る話である。
つまり、人並みの学力でも金を積めば編入は不可能ではない。
お嬢様の可能性があるとは、そういうことである。
男子の会話を聞く限り、お嬢様か頭の良いお嬢様という意見が多いようだ。
才女と言えど、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた、野暮な女子だったらたまったものではない、とのこと。
皆口々に、勝手な予想を話して盛り上がっていた。
「編入生か……」
机に頬杖を立てながら、祐介は呟いた。
大した意味も込められていないその声は、賑やかな教室の誰の耳にとまることもなくかき消された。
「はい、はい! 皆席について!」
数分後、教室の前のドアから担任の三谷が入ってきた。
二十代半ばの若い男の教師だ。
耳に障らなくもよく通る声、適度に伸びた清潔感漂う髪、半ぶち眼鏡から覗く優しい瞳、教壇に立たずとも長身だと分かる背丈。
性格も人受けが良く、女子に限らず生徒に人気だ。
だが、祐介はこの教師が気に食わなかった。
それはまた追々話すものとして、先に進める。
「もう知っている人もいると思うが、僕達のクラスに編入生がやってきた」
「センセー! その子は可愛いですか?」
間髪入れず、男子生徒が質問を投げかける。
「情報が早いなあ。もう女の子だと分かっているのか」
三谷は苦笑しながら、話を続けた。
「もうドアの外にいるから、結果は皆に確かめてもらうことにしようかな。さあ、入っておいで」
三谷の合図で、教室のドアが静かに開いた。
生徒の視線が一点に集中する中、編入生が入ってきた。
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