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教室を出た祐介は、ふと便意を催した。
小さい方だ。
「昼飯まで寝るんだし、トイレには行っておくか」
チャイムが鳴るまでに済ませて屋上に行かないと、道中で教師に不審に思われてしまう。
尿意に関して切羽詰まっているわけではないが、小走りでトイレへ駆け込んだ。
事細かな記述は中略。
無事に用を足した祐介は、手を洗おうと洗面所へ向かおうとした。
その時だ。
「……ん?」
微かに、すすり泣くような声が聞こえた。
気のせいかと思ったが、耳を済ますと僅かだが確かに聞こえる。
しかも、女の子の声だ。
男子トイレで女の子のすすり泣き声とは、一体どういうことなのか。
健全な男子以上に下ネタに飛躍させるのが得意な祐介は、一瞬淫らな光景を想像したが、すぐに否定する。
よりによって名門校でそれはない。
いや、でも以前関西の某大学で悲惨な事件があったような……。
それか、これが噂のトイレの花子さんなのか。
だとしたら、ここは男子トイレだということをしっかり教えてやらねば。
化けて出んならお隣さんだろと。
等とくだらない考えに耽っている場合ではない。
何か事情があることには間違いないのだ。
それも、誰かが悲しんで泣くような事情だ。
面倒事に首を突っ込みたがる性格ではないが、このまま放っておいては気持ちよく寝付けない。
祐介は、声の主がどこにいるか探した。
それは難なく判明した。
手前から四番目、一番奥の個室だ。
鍵がかかっている。
静かに歩み寄ると、祐介はそっとドアをノックした。
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