Chapter.1【二つの出逢い】

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「おい、どうした? 何で泣いてんだ?」 びくり! 別段物音がしたわけではないが、中にいる人物が酷く驚いているような気配を感じた。 十数秒間待つも、返事はない。 「もしもし? おーい」 怖がらせないように、努めて優しくゆっくりノックをしながら、穏やかな口調で呼びかける。 が、やはり返事はない。 しかし、中に誰かいるのだけは確かだ。 第六感がそう告げている。 「分かった、顔を見せたくないならそれでいい。声を知られたくないのかもしれないしな。このまま無かったことにして立ち去るが、それでいいか?」 呼びかけ方を変えるも、依然として返事はない。 これは本当に深刻な問題かもしれない。 考えにくいが、男子に何かしらの虐めを受けていたとしたら、顔は見られたくないし声も聞かれたくないだろう。 かといって、このまま立ち去るわけにもいかない。 「誰か教員を呼んでくるか? 女が良いならそうするが」 サボるつもりの自分としては不本意だが、仕方ない。 一度関わると中々引けない祐介だった。 だが、ドアの向こうから返ってきた答えは、祐介が想像していたものとはかけ離れていた。 「あなたには……私の声が聞こえるんですか?」 絞り出すようにして発せられたその声は、確かにそう聞こえた。 「えっ?」 それはつまり、どういうことなのか。 まさか、本当に花子さんが化けて出たというのか。 悪ふざけだとしたら、中々大した女の子だ。 「面白いなお前。わざわざ男子トイレにこもって泣き真似して、男子を引っかけようとしたのか?」 普通に考えたらドン引きだ。 「そう、やっぱり聞こえるんですね」 だが声の主は、やや嬉しそうにそう言った。
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