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「おい、どうした? 何で泣いてんだ?」
びくり!
別段物音がしたわけではないが、中にいる人物が酷く驚いているような気配を感じた。
十数秒間待つも、返事はない。
「もしもし? おーい」
怖がらせないように、努めて優しくゆっくりノックをしながら、穏やかな口調で呼びかける。
が、やはり返事はない。
しかし、中に誰かいるのだけは確かだ。
第六感がそう告げている。
「分かった、顔を見せたくないならそれでいい。声を知られたくないのかもしれないしな。このまま無かったことにして立ち去るが、それでいいか?」
呼びかけ方を変えるも、依然として返事はない。
これは本当に深刻な問題かもしれない。
考えにくいが、男子に何かしらの虐めを受けていたとしたら、顔は見られたくないし声も聞かれたくないだろう。
かといって、このまま立ち去るわけにもいかない。
「誰か教員を呼んでくるか? 女が良いならそうするが」
サボるつもりの自分としては不本意だが、仕方ない。
一度関わると中々引けない祐介だった。
だが、ドアの向こうから返ってきた答えは、祐介が想像していたものとはかけ離れていた。
「あなたには……私の声が聞こえるんですか?」
絞り出すようにして発せられたその声は、確かにそう聞こえた。
「えっ?」
それはつまり、どういうことなのか。
まさか、本当に花子さんが化けて出たというのか。
悪ふざけだとしたら、中々大した女の子だ。
「面白いなお前。わざわざ男子トイレにこもって泣き真似して、男子を引っかけようとしたのか?」
普通に考えたらドン引きだ。
「そう、やっぱり聞こえるんですね」
だが声の主は、やや嬉しそうにそう言った。
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