『口火の灯り』

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「痛ぇっな、畜生…」 2025年、初夏。 雲ひとつ無い空から灼熱の太陽がジリジリがコンクリートの地面を照らす。 時折吹く風はモワッとしており、全身に纏わり付くような熱気が街全体を包み込む。 セミの鳴き声と車のエンジン音が辺りにうるさく響き渡り、通りはハンカチを片手に額から垂れる汗を忙しく拭いている人々で行き交っていた。 歩道脇に軒を連ねる万緑の木々達は、熱風に包まれ、どこか草臥れているように見える。 またこれから長い炎暑がやってくる。そんないつもと変わらない日だった。 「ハァ…ハァ…」 そんな中、何やら雑居ビルの路地で騒ぎがあったらしい。 人気のない路地には、4人の学生と、その周りで倒れている物騒なチンピラ達がいた。 その数は大体7.8人くらいだろうか。 室外機の音とチンピラ達の苦しそうな声が辺りに響く。 「ふぅ…ほら、取れよ」 学生の中にいる短髪の男が、座り込んでいる色白のメガネをかけた学生に、茶色い長財布を投げた。 短髪の男は口の端が少し血で滲んでいる。 「あのさぁ渡辺、いい加減こういうことすんのやめろって…」 短髪の男は、メガネをかけた学生に、更に続けて言葉を投げ捨てる。 この男は背はあまり大きくないものの、筋肉質で、目はキリッとしている。 「余計なことしないでくれるかな力也君。誰も助けろとは言ってないんだよ…」 渡辺と言われたメガネの男は、皮肉めいた言葉を放つと、その場で立ち上がり、左手で眼鏡をクイッと上げた。 どうやら、短髪の筋肉質な男は名を力也、メガネをかけ、皮肉めいた態度をとる男は名を渡辺というようだ。 「金を欲しがるバカ共に金をやる…僕にとってこれは快感だ。それなのにいつも勝手に止めに来るのは君達だ」 渡辺は早口でベラベラとそう話すと、力也には一切目線を向けず、地面に落ちていたバックを拾い上げ、肩にかける。
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