奇跡はあった

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気付いたら俺は店の中に乗り込んでいた。 目の前で息子は酷く驚いた顔をしている。 そして涼子とそっくりな女は固まっていた。 「希望…パパに隠れて何してんの?」 いつも通り俺は軽い口調と笑みで希望に話しかけた。 「誰がパパだ気色悪い。」 希望はげんなりとした様子で俺を見る。 「…希望君のお父さん?」 女はふわりと微笑んで俺を見上げた。 ドクン 心臓が鳴る 涼子だ そう身体中が叫んだ。 「まぁ一応。でもみことさん気を付けなよ?この人女たらしだから孕まされるよ」 何とも失礼な事を言う息子に女はクスリと小さく笑って右手を俺に差し出した。 「初めまして。 天野命―あまのみこと―と申します。 希望君とは親しくさせて貰っていますが怪しいものではないので安心してくださいね」 女―天野命―はそう言って横目でもう一人の男を見やった。 男は爽やかに微笑み 「天野天牙―あまのてんが―です。 命様の従兄弟でお目付け役です。 以後お見知りおきを」 そう言って軽く会釈をしてきた。 だが彼等の自己紹介を右から左へと流した俺は、天野命と名乗る女の差し出した右手を掴んだ。 天野命? こいつは涼子だ。 心で呟き、そして彼女を自分の方まで引き寄せ耳元まで顔を寄せる。 「ちょっ親父!?」 「なっみことさまっ!」 馬鹿息子と変な男の慌て振りも気にせず俺は彼女の耳元で 「お前、そのワンピ似合ってねーよ」 と囁いた。 彼女は目を丸くして それから直ぐに俺を睨み付ける。 「うっうるさいなぁ! 砂那に何が分かるのさ! これは可愛いし店員さんも似合ってるって言ってくれたの!」 そう叫んだ瞬間 天野命は青ざめた。 天野天牙はため息を溢している。 希望は全くもって状況を掴めないのか困惑した表情で俺達を見つめていた。 「初めまして?何言ってんのお前… 久しぶりだろ? 涼子チャン」 ニヤリと笑う俺 泣きそうな程青ざめた涼子 深く呆れる天牙 「ぅぇぇええ!?」 驚き叫ぶ息子 その日奇跡の再会が全てを変えるなんて 俺は知らなかったんだ。
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