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葬式も終わり涼子の実家へと足を運んだ。
涼子の父親である沢田雪也が出迎えてくれた。
「砂那!よう来たな。希望も一週間ぶりやな」
雪也さんは豪快に笑いながら家へと招いた。
希望の祖父で涼子の父。
彼は涼子の葬式の日も今のように豪快に笑っていた。
最愛の娘の死。
それを涙も流さず豪快に笑い飛ばす父親なんて彼くらいだ。
彼は言った。
「生まれる日と死ぬ日っていうのは人生の最初と最期や。せやから盛大に出迎えて盛大に見送りしなあかん。」
その言葉に俺は少しだけ尊敬した。
彼は本当に涼子を溺愛していたし、彼女が死んでから今まで月命日所か毎日墓に足を運んでいる。
それでも彼は泣く事だけはしなかった。
辛いなら笑え。
笑えないなら作り笑顔を浮かべろ。
そのうちいつかその笑顔が本当の笑顔になる。
辛くても笑い飛ばせばいつかきっと幸せな事がある。
彼の口癖だ。
「せや、お前等今日不思議な夢見たんや」
「夢?」
「おぉ。涼子がな病室でお前等と笑ってんねん。俺は居らんかったわ」
雪也さんはそう言って首を傾げた。
「不思議な夢やな」
そう言って笑った。
「もしかたら涼子が来るかもな」
そんな冗談に希望は「いや幽霊は・・・」と少しだけ肩を震わせた。
俺は苦笑して「まさか・・・」と答えた。
そんなオカルトじみた事がある訳無い。
もしも会えるのなら例え幽霊でも嬉しいけれど、それは叶う事の無い想いだから。
どれだけ俺が会いたいと思ってもそれは無理な事だ。
不可能だから。
「まぁそりゃあそうやな」
雪也さんはそう言って笑った。
涼子が死んだ日彼は言った。
『最初で最期の親不孝やな』と。
泣くでもなく笑うでもなく。
淡々と呟いた。
今でも忘れられない。
あれだけ親を愛していた涼子が親の死に目を見るより先に自分の死に目を親に見させた。
彼女もやりきれない気持ちだったのかもしれない。
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