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その日の夜、夢を見た。
漆黒の少し癖のある長い髪。
綺麗な黒曜石の様な瞳。
ふわりと微笑えんで俺を見つめる。
大好きな彼女。
涼子が目の前に居る。
夢だと直ぐに分かった。
だけど、涼子が死んでから彼女を夢で見ることは今日まで無かった。
何故?
どうして彼女は今更、現れたのか。
‘砂那・・・’
涼子が俺を呼ぶ。
嬉しくて手を伸ばした。
だけど彼女は一歩後ずさる。
「涼子・・・?」
綺麗な瞳が一瞬悲しそうに揺らめいた。
‘駄目だよ。こっちに来たら’
彼女はそう言った。
‘砂那・・・大好き’
そう言って笑う彼女。
だけど彼女は俺の傍には来てくれない。
優しく微笑んでくれるのに近づくと悲しそうな表情で首を左右に振る。
「涼子!何で・・・何で」
何で今更・・・夢に現れた?
好きだと告げる口で来ては駄目だと言う。
分からない。
だけど悲しくはなかった。
「ずっと見守ってくれてたんだよな?これからも見ててくれるんだよな?」
俺の言葉に涼子は目を丸くしてそれから小さく笑った。
‘ずっと一緒だよ。’
そう言って涼子は細長い指先で俺の胸を指し示す。
心。
あぁ・・・そうだな。
涼子・・・
俺とお前は心で繋がっている。
だからずっと一緒だ。
「あぁ・・・ずっと一緒だ」
そう言って笑った。
涼子は安心したような表情を浮かべ、そして徐々に消えていった。
俺が手を伸ばす事は・・・
もう無かった。
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