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「近っ……。」
「あ、ああこれはすまない。みんな、少し下がろう。」
無意識を装った、私の言葉の効果は抜群で、男たちは申し訳なさそうに私から距離を置いた。
今の私の、完全に確信犯だった発言は、嘘に入るのだろうかといつものように考える。
「取りあえず……話を進めていいかな。」
「あ、はい。」
「こちらの状況は……総司。話してくれ。」
「はい。」
偉い人が話を振った総司と言う人は、こっちを向いて話し始めた。
おお。いけめそいけめそ。
「この間の雨の日、私と土方さんは、倒れてぐったりとしているあなたを発見しました。息があったので、連れて来ました。……こんなところです。」
「はあ……。崖から落ちたから……崖の底で拾ってくれたんですか。そんな危ない場所で……本当にありがとうございます。」
「えっ!?崖から落ちたんですか!?」
私以外の全員が、驚きの声を漏らした。
「私があなたを見つけた場所は崖底ではありませんでしたが……いったい、なぜ崖から……?」
……崖底じゃない……?……まあ、考えたって分かるわけないか。
「ちょっと変な男たちに騙されまして……襲われそうになったんで、車から飛び出したんです。そしたら崖に落ちちゃって……」
「くるま?」
「く、るま?」
「なんだね、それは。」
「…………は?」
冷や汗が、背中を伝った。
はやる頭を必死で押さえつけながら、ゆっくりと周りを見渡す。
着物を着た男たち。
古い建物。
今ではあり得ない髪型。
襖から覗く古い景色。
腰に、刀。
…………な……に…………
……なに…………ここ……
だれよ…………この人たち……
カタカタと、視界が揺れる。
力が、入らない。
握った手が、いつの間にか汗ばんでいる。
…………やだ……私馬鹿なんだから……
誰か……誰か教えてよ…………
神……あんたがやったんでしょ……?
私が、嘘ばっかりつくから……
……捨てたんでしょう?
「おっ、おい……!大丈夫か!?顔色悪い……」
「っ……!触らないでっ……!!」
無情な乾いた音が、驚くほど響いた。
捨てるくらいなら、殺してくれれば良かったのに。
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