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差しのべてくれた手を、払ってしまった。
嘘をついた時よりも酷い罪悪感が、私をきつく抱きしめる。
「……っ……」
そいつを振り払って、ずりずりと後ずさった。
体の痛みなんか気にならないぐらい、腐った心が鼓動を打つ。
「……や……ここどこ…………意味分かんない……は……?……」
馬鹿みたいな言葉しか、並べれない。だって私は馬鹿だもん。だれか、だれか教えてよ……
「おいっ、大丈夫か!?」
「やっ……こないで……っ!」
こないでと言っても、近づく彼。さっきまで顔が怖かった彼。手を振り払ってしまった彼。
『彼』と同じ匂いがする彼。
その彼は、私を覆うように抱きしめてくれた。
暖かい暗闇に、『彼』の匂いがする。
それだけなのに。『彼』の匂いがするこの暗闇は、『彼』じゃないのに。
酷く安心してしまった自分がいる。
だから私は、錯覚してしまったんだ。この暗闇は『彼』なんだ、と。
自分から、『彼』を抱きしめた。
手を振り払ってしまっても、また差しのべてくれた彼ではなく、
私の中にいる『彼』を。
「……しょうた…………」
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