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私の呟きから暫くして、暗闇はなくなってしまった。
「落ち着いたか……?」
その暗闇の正体は、やっぱり『彼』ではなくて。
少しの失望感を覚えながら、小さく頷いた。
「ほら言っただろう、トシ!お前は人前で猫被ってなきゃ駄目だって!」
「んなっ!だ、だってよ、かっちゃん!こいつが猫被んなくていいって!」
「それはトシの聞き間違いだ!」
「はああああ!?」
……なんか、楽しそうだな。
いかにも仲が良さそうな二人が繰り出す会話は、息のぴったりな漫才みたいで。
くすりと笑ってしまった。
手の震えも止まっていて、手汗をゴシゴシと着物に拭いた。
着物に………………着物?
「あっ、あのー……」
「何ですか?」
近くにいた、眼鏡の人が答えてくれた。
「着物って……」
不安そうに、着物を指でちょっと引っ張りながら言うと、眼鏡の人は二人の漫才BGMに負けない声で、
「大丈夫ですよ。女の方があなたの身の回りをお世話していましたから。」
「あ、そっそうですか!よかった……。」
本当に良かった……
そして、取りあえず状況を把握することにした。
馬鹿だけど、頑張る。
ここにいる人は、この間と同じ人だ。
偉い人と、顔怖い。さっきの眼鏡の人に、私を拾ってくれた……総司、だっけ……?あと、私のミニマムコレクションの白と黒である、平助君と、山崎君。
「だから、トシの素なんか出したら評判悪くなるって!」
「だから今までずっと人前では猫被ってたろうが!」
まだ漫才やってたのか……
えっと……
「いつもだ、いつも!どうせならトシ、猫になれ!」
「意味わかんねェって!だいたい、俺がどうだろうと、ここの評判はもとからわりィだろ!」
BGMにしては音大きいわよ。ボリューム下げなさい。
「ただでさえ評判悪い新撰組なんだから、もっと悪くしちゃ駄目だろう!」
「評判なんて、どうだっていいんだよ。力で守りゃいいだろ。」
「もしもの時に、誰も聞いちゃくれないぞ!」
「はっ、上等だ……って、どうした?」
無意識に、顔怖いの袖を掴んだ。
まてまてまて、今さらっと言ったな。今さらっと言ったな。確かにさらっと言ったよな。
…………新撰組?
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