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「そうね。パパありがとう。愛も幸せよねっ。」
大人は嘘つきだ。
幸せは贅沢をさせてもらうことだけではないのよ。
そう思っているくせに笑顔でお礼を言う母も
決して安くはない金額を払って誕生日を祝うくせに、心などここにはない父親も。
…そして僕と弟は、自分達に攻撃が向かないように
作り笑いをしていた。
大人じゃないに
僕達もまた嘘つきだ…
そんなことを考えてぼんやりしたせいで、僕は失敗をしてしまった。
「カラーン」
音をたてて肉を切っていたナイフを落とした。
父親のかおは固まっていた。
そして
僕は左手にフォークが突き立てられるのをスローモーションで見た。
痛みに顔が歪んだが、痛いとは言わなかった。
言ったら2度目が来る。
そんなことわかりきっていたし、本当に痛いのはフォークを突き立てられた左手ではなかったから。
「ごめんなさい」
そう言うことしか僕にできることは思い付かなかった。
母はボーイを呼び、ナイフが落ちたことを告げ、すまなさそうな顔を父親にむけた。
「ごめんなさい、海は体調がよくないみたいなの。部屋に連れて行くわ。」
僕の左手を綺麗なレースのハンカチで押さえて、母は僕を促した。
部屋に戻る途中、売店でサンドウィッチとジュースを買い、僕に渡した。
「あの焼きたてなのに冷たい味しかしないお肉よりきっと美味しいわ。」
そう言って笑い、そして涙をこぼして
「海、ごめんね…」
と言った。
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