音の記憶 最終章

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音の記憶 最終章

傷を負った人間は、間に合わせの包帯が必ずしも清潔であることを要求しない。        三島由紀夫 しばらく後、僕は 用事ができて(眼鏡 を直しに)あの駅ビル の5階へ行くことに なった。 自宅からは近い。 徒歩で向かった。 あたたかい春の日差し がやわらかい、そんな 正午前だった。 歩調にあわせ、つい鼻歌が 出てしまう。  ♪春の訪れとともに   新しい恋がはじまる   まぶしい彼が・・・ 歌詞はイイ加減にしか覚えて いないので、やはり鼻歌。 ・・・いいオッサンが^^; やれやれ(苦笑 ゆるやかな坂を くだり、駅の階段を のぼる。 ピラミッドみたいな ガラスの屋根のあ る広場に出た。 かつて、バイオリンの ソロコンサートが開かれた 場所。 そこに、あの黒服の姿は なかった。 かわりに、だろうか・・・ 花束と楽譜と、 ワンカップが、そこ に供えられていた。 僕は一瞥して通り すぎた。 「あの男、ホントに  上書き保存できた  のだろうか・・・」 ふと、そんなことを 思った。
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