凡才の幻想入り

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………… 「はぁ、暇だな」 練城和真という名の、19歳の青年は暇を持て余していた。 本当は大学生だったが、頭の悪さから大学の授業について行けず、先日退学させられてしまったばかりである。 勉強もしないために当然と言え、和真自身もそれを知っていて退学した。 現在は無職で、特にやることも無い生活を送る日々である。 「はぁ、親父が生きてたらなんて言われるか……確実に勘当だろうな」 和真の父親である練城真也は人一倍の努力家で、有名な大学を出て議員にまで出世したエリートだった。 しかしある日突然、暴走車が起こした事故により他界した。 和真が勉強をしなくなったのも、努力家だった父があっさりと他界したからである……努力しても死んでしまえば無駄だと、強く心に刻まれてしまったからである。 母親と父親が遺した財産で生活しているが、母親は出稼ぎで殆ど家に帰らない。 もっとも、その仕事先で新しい男と付き合っているのも知っている……母親は和真など見ていなかった。 『運動も勉強もできないし、俺に未来なんて用意されてるのか……誰も俺を必要としない、誰も俺なんて見ていない、だったら俺は本当に存在しているのか……?』 「自ら自分の存在を幻想として見る……新しいパターンね」 『っ……誰だ、今の声は』 和真以外は誰もいない自室に、突然女性の声が聞こえる。 和真はベッドから身を起こして辺りを見回すが、やはり誰もいない。 『幻聴……とうとう俺もいかれたか?』 「ここに居場所が無いなら、幻想になる?」 『っ、また……誰だ』 「幻想郷は全てを受け入れる、貴方も例外ではない……そんなに暇でこの世界に絶望したなら楽園に来なさい、歓迎するわ」 「誰だ!」 和真はベッドから飛び降りるが、着地する感覚が無かった。 足元を見ると、和真は足から巨大な空間の裂け目に飲み込まれていた。 『なんだよ、これ……』 上を見ると、裂け目の中から自室の天井が見える。 それが和真がこの世界で見た最後の風景で、裂け目の入口はピシャリと閉じてしまった。
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