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…………
「っ……畜生、ここはどこだよ」
和真が地面にぶつけた頭を押さえながら起きあがると、そこは人の気配が感じられない夜道だった。
周りには草が生い茂り、空はよく星が見える……今までの世界とは、違った風景である。
「ここが、楽園……確かに、自然は豊かだな」
見渡す限りに広がる平原に、先が見えないほど長い道……ただ一つの人工物は、一枚の看板が立っているのみ。
「んっ、なんだこの看板は……夜雀注意、どういう意味だ?」
和真が看板を見ていると、突然周りが暗くなる。
まるで闇そのものが現れたかのような……形容し難いが、一寸先の看板すら見えなくなってしまう。
「おいおい、何が起きて……」
「あなたは食べてもいい人間?」
「っ……誰だ!」
和真は背後からの声に振り返るが、やはり闇のせいで何も見えない。
がむしゃらに闇を抜け出そうと走るが、何かにぶつかってしまう。
「痛いなぁ、大人しく食べられてよ」
「っ……!」
何かにぶつかった和真の目の前に、大きな口を開けた少女が現れる。
金色の髪に、闇と同化して殆ど見えない服……いつの間にか闇は無くなり、少女は笑いながら和真の腕に噛みついた。
「いてっ、何しやがる!」
「何って、妖怪が人を食べるのは当たり前でしょ?」
「よっ、妖怪……だと?」
和真はそれを聞いて少女を振り払うと、ひとまず間合いをとる。
「私はルーミア、宵闇の妖怪……3ヶ月ぶりの新鮮な肉、大人しく食べられてよ」
「俺は練城和真だ、八雲紫に連れてこられてここに来たんだ。くそっ、何が楽園だよ」
「やくも……ゆか、り?」
ルーミアと名乗った少女は、紫の名を聞くと若干顔色が変わった。
『これは……なるほど、どうやら紫の言ったことは本当らしいな』
「あの妖怪にバレる前に食べちゃえば、平気だよね♪」
「ちょっ、紫効果低すぎだろ!」
ルーミアは闇を纏って和真に突進しようとするが、突然目の前に現れた黒い影に邪魔されて止まる。
「私の肉を取るのか?」
「あなたも鳥目にしてあげようか、ルーミア……私の獲物よ」
「私の肉だよ、ミスティア」
よく見ると黒い影は少女であり、背から翼が生えていた。
『妖怪同士か……この翼、こいつが夜雀か?』
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