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改札を出てあたりを見回してみる。
――うん、なにもなかった。
民家も車も人や動物の姿もない。
ただ草や木、あとは道がずっーと複雑に続いているだけだった。
まわりが見えないくらい真っ暗なのと、不気味な物音が聞こえるせいで、もう家に帰りたくなった。
我ながら女々しいと思うが、暗いのとおばけは嫌いなんだ。
家をでるときは絶対後悔しないと思ったのに、今はとても家に帰りたくてしょうがない。
あんなに嫌な家でも、ここに比べればだいぶましかもしれない。
電気がついてるから明るいし、一応人がいる。
ないものを求めるって本当なんだ。
家では家族を消してしまいたかった。
今では、周囲に人を置きたくてしょうがない。
だが、後悔したところで家に帰るお金などないのだ。
切符を買ったときに後戻りできないようにと、片道の切符しか買っていないし、片道の切符だけで僕のわずかなおこづかいは底をついた。
「とりあえず、先に進まないと」
自分に言い聞かせるように口に出して、月の灯りを頼りに一歩ずつ歩いていく。
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