家出少年

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彼女はベンチから僕に向かって歩いてきた。 足元の猫も一緒に。 「帰る家はある。けど、帰るつもりはないから食べるものも寝る場所もないよ」 嘘をつくのも面倒でありのままを話した。 すると彼女は満足そうな笑みを浮かべた。 「私は、満月。『まんげつ』って書いて『みつき』って読むの。なんか聞きたいことある?」 今度は質問してほしいらしい。 なんのつもりなんだかまったく。 「なんでそんなに僕に構うの?」 言われたとおりに質問した。 「私の家に来る?おばあちゃんいるけど、普通に泊まれると思うよ」 彼女は後ろで指を絡ませ、聞いてきた。 彼女の耳が遠いのか、または、僕の声が小さくて聞こえないのかわからない。 まわりから見れば、奇妙な会話に聞こえるのだろう。 いや、会話ですらない。 そんなことを心配しても、まわりに人は誰もいないのだが。 そんなに僕の話が聞きたくないのだろうか。 それとも、天然なのか? イメージが合わない。 もっと人の話ぐらいちゃんと聞く人だと思えたんだけど。 思い違いだったようだ。
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