売られてゆく仔牛

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部屋に佇む少女はダークブラウンの瞳を困った様に瞬かせながら私の方を見つめている 腕には厚さ20センチ程の紙の束を抱いていた 「サティ…何?その紙…」 「あ、これからまた貼りに行くんですよ。なんか勇者がどうとかっていうポスターです」 「これ全部?!」 しかも貼ってる本人が内容理解してないし、効果あるの?! このポスター!! …いや、これだけ貼ってて無頓着なこの子も凄いけど 栗色の長髪を後ろで一つに纏め、ベージュの洋服に身を包んでいる十代中頃のこの少女は、名をサーノベルト・ラインという 彼女は産まれて間もなく捨てられていたところをボスに拾われて、それ以来ここでボスの手伝いをしている それを考えるとボスの年齢はどんなに若く考えても三十路を超えている訳で…あのエネルギーがどこから来ているのかは謎である ボスは彼女を一流のスパイにしようと昔から企んでいたらしい。サーノベルト・ラインなんていう長ったらしい名前も、「覚えにくい」ということを重視して付けたとか もっとも今では、ボスも含めて皆から「サティ」と呼ばれているからその名前の意味もなくなりつつある。それでも、一般の親が「皆から愛されるように」「元気で明るい子になるように」と込めている願いとは正反対だ ちなみに、サティという名前は流石に目立つので「佐藤小鳥(サトウサトリ)」という微妙に語呂の悪い(というか言いにくい)偽名も付けられている …にも関わらず、このサティはどういう訳かボスのことを敬愛している そして、穏和な性格に反して実力は私達の中でもトップクラス… 幼い頃から裏家業のいろはを仕込まれたからだろうか、この若さで大きな仕事も1人で熟す組織の稼ぎ頭だ 彼女だったらボスの無理難題てすら聞いてしまうだろう
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