売られてゆく仔牛

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私が反応に困っているという事を察したのか、サティはそのまま言葉を続ける。 「私…本当は逃げてたんです。自分から行動することに。 …ボスは「優秀な諜報員」としての私を求めていたから、それ以外にボスが私に何も求めていないってことを認めるのが…何か怖くって」 照れ笑いをしながら話している中に、淋しそうな表情が垣間見え、こっちまで切なくなってきた。 …この子がこんなこと考えてたなんて思いもしなかった。 そんなことない…ボスはあなたの事を愛してる…思い付くのは安っぽい言葉ばかりで、結局私は沈黙を選んだ。 「言われたことをそのまま実行している内は、ボスも優しくしてくれるって、どこかで思ってました…。 …でも、本気出して自分から行動したら、ボスの本当の気持ちがわかっちゃいそうで」 サティがサッと顔を上げた。 「…でも、サザメさんは私のこと止めて下さいました。 それで…仕事をしなくっても認めて貰えてるのかな…と思いまして……」 サティの顔が赤くなってる…いつもの彼女だ 「…馬鹿ね」 空気が和んだ気がした 「あっ、…私もボスの手伝いをしないと!!」 サティが思い出したかのように言い出した。 「すいません、何だか急になってしまって…」 扉を開け、小走りに出て行こうとする姿は何年も前から変わってない。 …この後しばらく見れなくなる訳だけど。 なんとなくノスタルジックな気持ちになった。 「急いで転んだりしないよう気をつけなさいよ」 不意に口を付いて出たが、もう彼女も子供じゃないんだと改めて思った。 「サザメ…さん」 サティが不意に振り返った 「大好きです!! …ボスも、…サザメさんも!! 行って参ります」 サティはそれだけ言って、逃げる様に部屋を後にした 「…行ってらっしゃい」 もう聞こえないだろうけど、彼女が無事に試験に受かって良かったと心から思った。
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