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「人の命は平等なんかじゃないのよ」
記憶の中の女性はそう言った。
花のような笑顔と歌うような口調で。
「だって、命の価値って、この宝石の価値と同じ。在って無いようなものだもの」
細い指が首を伝い、銀色の鎖の先についた指輪を持ち上げた女性は、それはもう美しく魅力的で――それでいて凄絶な冷笑を浮かべた。
「坊やには大切なものでも……」
女性は指輪を持った手をなんの躊躇いもなく引っ張った。
華奢な鎖が切れ、首の後ろに痛みだけが残る。
「私には、ただの石ころだわ」
その指輪を返してくれたのは女性の優しさか、それとも己が其れをよりどころにしていたことを知ってのことか。
手に戻ってきた指輪を握り締めると、影が視界に落ちた。
ふと顔をあげると無邪気な笑顔とぶつかる。
「ねぇ、試してみましょうか?」
その時は何を強いられるのかなどまったくわからなかった。
けれど、今になって思うのだ。
その女性の純粋な好奇心が自身の知る中で最も残酷なものだった、と。
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