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とにかく早く家に帰りたかった。雨は嫌いだから。濡れたくなかったから。
傘をさして駅を出てそのまま脇道に入る。
靴はびしょびしょで、歩いて跳ねた泥水がスーツを濡らしていたけど、それも気にならない程にオレは急いでいた。
だから目に入っても、素通りしようとしたんだ。
傘も挿さず、この大雨のなかボーッと立って天を見上げている、顔の濃い男性の事を。
(……)
(………いいんだ、誰かが見つけるさ)
(………オレは早く帰りたいんだ)
心の声と、冷や汗が同時に流れる。立ち止まり、後ろを振り返るとその男はまるで静止画の様に先程と同じ姿勢のまま天を仰いでいた。
「~~~~~~ああもうっ」
こんな雨の中、びしょ濡れの男を放っておけるような図太い神経を持ち合わせていないオレ。今だけこの性格を恨むぞこのやろー。と、訳の分からない事を頭の中で叫びながら、来た道を10メートル程引き返し、男に声をかけた。
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