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「ああっ!い……い、いたぁ!」
誰もいないグラウンドで、制服のまんま
なぜか、田中くんも走っていた。
あたしのオデコには、汗の粒。
息が上がる。
体育だって嫌いだし
あたしがこんなに走ったのは、久しぶり。
でも、あたしに気づかずに、一心に走る彼の姿は……
(……ちょっとだけ……ほんのちょびっと、カッコいい……かも)
空は、上天気。
まだ淡い日差しは、彼の影をボンヤリと、白いトラックに描き出す。
たくさんの生徒たちが織りなす、朝の雑音も
グラウンドまでは、ほとんど届かない。
「……田中くんっ!」
ぜいぜい言いながらも
あたしは、お腹から声を出す。
(謝って……とりあえず、授業出なきゃ!)
田中くんは、ガバッと振り向いて
さらにスピードを上げて、あたしに駆け寄ってくる。
(おじいちゃんちのワンコみたいだなぁ……)
「田中くんっ!あの……ごめ……」
「ごめんっ!」
「へっ?!」
(何で、田中くんが謝るの?)
あたしが下げた頭を上げて、マジマジと見つめると……
赤くも青くもない、真面目で悲痛な表情の彼。
「好きになって……悪かった」
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