31人が本棚に入れています
本棚に追加
(だからって、ちょっともったいない……かな?
あたしの、初めて全部……フツウの田中くんだなんて!
……急ぐコト、ないよね?あたし)
「もう、話しかけたりとかしないから……安心して」
でも、あたしの向かい側で
この世の終わりみたいな、絶望的な風情の田中くん。
見ているだけで、胸がチクチクする。
「じゃあ……」
振り切るように、背を向けて、離れていく。
「田中くんっ!」
(あっ!口が……)
口が勝手に、田中くんを呼び止めていた。
「あの……下の名前、何て言うの?」
(やだ、あたしってば、テンパっちゃって、何言ってるの?!)
「えっ……有樹……」
(……田中、ユウキ……)
舌の上で、音を転がしてみる。
「田中、ユウキ……くん……
ココから……友だちとかから始めるんじゃ、ダメ?」
他に誰もいない、朝のグラウンドの真ん中で……
二人とも動けずに、立ち尽くす。
リンゴーン……
校舎から高らかに響く、チャイムの音。
「あああっ!じゅ授業ぉ!」
最初のコメントを投稿しよう!