31人が本棚に入れています
本棚に追加
ユウキくんに、恋してるわけじゃない。
周りの娘みたいに、本物の彼氏は欲しいけれど……
あたしには、まだ、踏み出す度胸は無い。
(ふわふわだけで、いいや!)
あたしは、生身の普通の男の子の手を、握り返してみる。
生まれて初めて、ほんのちょこっとだけ……
「風亜……最低!極悪!」
「風亜……ダメだよ!」
中休み。
女子トイレの脇の、例の初告白の廊下の隅っこ。
左右を奈緒と華絵に挟まれて、サラウンドで非難の声。
「田中、可哀想なヤツ!」
「田中くん、可哀想じゃない!」
「だって……初めて好きって言われたんだよぉ」
出来るだけ、小さくなる。
二人には、平均並みのあたしの気持ちが、わからないのかも。
「ちゃんと、フってやれよ!」
「ちゃんと、付き合ってあげるんだよ!」
初めての不協和音。
二人は、顔を見合わせる。
「能天気な顔して、生殺しかよ!」
「のん気な顔しちゃって生殺しだよ!」
再び、セリフがかぶって……
あたしたちは、一斉に吹き出した。
廊下に連なる窓の外は、昨日と変わらず、ぽかぽかお天気。
ふわふわと、真っ白な雲。
最初のコメントを投稿しよう!