ヨアンについて

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 動物の調教師をじっと見る動物のように私が見えることができる両手を保ってください。 おかみさん、何も言わぬまま、そう何も言わぬままで。駆け回るのが、ねぇきまり悪げ。だから、私は出て行くの、何かが責め立てる、立ち止まってみる、名前すら思い出せなかった。ただただおかみさん、おかみさん。老いの角、聞こえる滝の声色、びしょぬれの鳴き声で。すっくり掬い取ってある種の完結を求めた、どうやらおかみさん頭の引き出しへらへらと取っ手が馬鹿になっている。石がきいんと冴えかかってかすかな苔に踊る。思考、娘のごとき無邪気な痴態、おかみさん、くるくると泡となって、そうして。立ち昇っていく、小鳥のように舞って「あはは」  人間の聞きとれるアンテナを超えて、おかみさん自身の持つ敏感なリズムに、滴る音を伴って。試しに目を瞑ると集束された点が線へと変化しているのがボストンバックから溢れだす。好い響き、その音、南かな。千鳥足にすがりつこうとするのはもうやめよう。踊ってばかりはいられなかった、踊るたびに虚飾が上塗りされていくようだった。たわわに実った曲線美を耳打ちは震わせた。そうさせただけの意識はつまり拭い去ろうとするカタルシス、美化へのヒキガエル、甲高いワンツースリー。冷点は騒やかにピアノ線を引く力にアウトプットを傾ける。ぴくぴくぴくと崩れ落ちそうに、言いかえればぴったりだった具合が悪くなっていくように。仕方ない、上昇して鍵盤をどつくように、駆けずり回る赤、そして煙草が不味い。否定はしない、ただ肯定もしない。ありのままそれを需要する、それだけ。執着するものがいつしか変わる、果てることにもまた視点が変わった。
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