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俺が煙草を吸う理由があるなんてコトを、誰も知らない。
悟空にすら出逢っていない時、あの時はまだ吸っていなかった。寧ろ嫌いな部類だったかもしれない。
ある事をキッカケに、徐々に吸うようにはなったが、今ほどヘビースモーカーではなかった。
その理由だって、誰も知らない。
今日は、後者の方の話。
悟空と付き合う前だったか。
俺は悟空と喧嘩をして、一時期険悪なムードが続いていた。
喧嘩の理由は覚えてはいないが、とにかくメチャクチャ意地を張っていた。
そんな喧嘩が3週間続いたある日、旅の途中で立ち寄った街の飲食店。
「三蔵、煙草…吸いすぎじゃないですか?」
微妙に顔の引きつった八戒に言われて、目下の灰皿に目をやる。
そこには、絵に描いた様に山盛りになっている煙草があった。
飲食店に入った三蔵一行の灰皿としては珍しくもないのだが、今日は少し話が違う。
その吸殻は全て、三蔵ただ独りのもの。
その上、注文した料理はまだ1品も運ばれてきていない。
三蔵自身少し驚きもしたが、「そうか?」と適当にあしらっておいた。今は凄くイライラしていて、なんだか面倒だった。
『お待たせ致しましたー』という弾んだ声に乗り、8品目の料理が運ばれてきた。
「何度もすいません、灰皿を換えていただけませんか?」
八戒は3回目の台詞に、少しの謝罪の言葉を付け加えた。
心無しか、店内がモヤってきた気がする。換気扇フル回転でも、完璧な換気は望めないようだ。
「おい三蔵…明日死んでも文句言えねーぞ…」
そのうち悟浄まで心配しだした。だが、その隣に居る喧嘩中の悟空は、ずうっとだんまりだった。
悟空のその態度にも、三蔵はイライラしていた。
この日は三蔵の一生の中で一番煙草を吸った日だったに違いない。
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