夏休み

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あの日、私達は小学5年生だった。 夏休みのど真ん中。 私と真司と和也、 そしてナツは校庭の隅の鉄棒のところで、 何もすることがなく、ボンヤリと、 野球をしている連中を眺めていた。 クラスの中で大して目立つ存在でもなく、 運動神経もさほどよくない私達は、 一緒に野球をやろうと誘われることもなかったし、 私達の方でも仲間に入りたいとは思わなかった。 「すげえ真っ黒じゃねえ・・・」 自分の影を見て和也が言った。 太陽は空のてっぺんにあって、 地面にある私達の影は、 確かにいつもより、 黒くはっきりと見えた。 ナツの足元にボールが転がってきた。 向こうで、 「おーい」 と荒木がグローブをした手を上げた。 ナツはボールを拾うと、思いっきり投げた。 ボールは荒木の遥か頭上を越えて、 校庭の外にまで飛んでいった。 わざとではなかったと思う。 「どこ投げてんだよ!」 荒木はクラスでも一番体が大きくて、ケンカの強い奴だった。 「とって来いよ、テメエー!」 ナツは何も言わず、自分の影を見つめていた。 あっという間にナツは荒木に押し倒されて、殴られた。 私達は体がすくんで止めることすら出来なかった。 荒木は 「ふざけんなよ」 と言い残して行ってしまった。 ナツは殴られた目のところが赤く腫れていた。 真司が 「大丈夫か」 と言いながら 埃まみれになったナツのお尻を払ってやろうとすると、 ナツはそれを振り切って歩きだした。 「待てよ」。 私達はナツに付いていった。 ずいぶん歩いた。 ナツはずっと声を出さずに泣いていた。 私達は声もかけることが出来ず、 黙ってナツに付いていった。 何処へ行くつもりなのか。 ナツはいつまでも泣きながら歩き続けた。 途方もない時間に思えた。 ナツが立ち止まった。 そして・・・
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