夏休み

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ふと、顔を上げると、 私達は草原の中にいた。 信じられなかった。 そこは、見たこともないような、 見渡す限りの大草原だった。 空は怖いほど青く、 地面は草に覆われ、 何処までも何処までも続いていた。 和也と真司と私は、顔を見合わせた。 ナツが振り返り、 白い歯を見せて笑った。 私達は喚声を上げ、走り出した。 どれくらいたったのだろう。 私達は時間を忘れて夢中で遊んでいた。 やがて、丘の上に小さな小屋を見つけた時には、 空は真っ赤な夕焼けに包まれていた。 ナツはその小屋にマッチで火をつけた。 小屋はアッという間に燃え上がり、 オレンジ色の炎は、夕焼けの空に高く上がっていった。 私達は、ジッと、その炎に見とれていた。 小屋が燃え尽きた頃には、 いつの間にか空は満天の星空になっていた。 天の川がはっきりと見え、無数の星が銀色に輝いていた。 降り注ぐようだった。 「・・・もう帰らなきゃ」 私が言うと、 ナツが振り返り、私を見つめた。 私の記憶はそこで消えている。 その後どうしたのか、思い出せない。 ナツにもそれ以来会っていない。 いや、 その前にも会ったことなどなかった。 私がナツを知っていたのは、 あの日だけだ。 そして、 ナツと過ごした、そんな一日があったことさえ、 私は今の今まで忘れていたのだ。 あの子は誰だったのか。 あの一日は本当に存在したのか。 私は自分の記憶を確かめたくて、 何十年ぶりかで、和也と真司に連絡をとった。 二人は口を揃えてこう言った。 「お前があの時、帰ろうなんて言わなければ、 俺達は今でもあそこにいられたかもしれない・・・・ でも多分、 お前が言わなきゃ、 俺が言ってたよ・・・・」
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