第一章《枯れたモノ》

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   † その日は朝から憂鬱を絵に書いたような雨だった。 もう日にちが変わる時間帯だというのに空は変わらず灰塗れの雲を浮かべ、その隙間から雫を零す。 しとしと、しとしと、と泣くように。 濡れたアスファルトを傘を差しながら歩いていく。 何回見ても空が泣き止む気配は無い。 無色透明の涙は紺色の傘を叩き訴える。 それが堪らなく煩わしい。 「全くもってツイてない」 零れる言葉も虚空へ消える、たった一人の帰り道。 冷たさを感じるのは水を吸ったズボンの裾、シャツの肩。 幸いにして靴の中は無事であるが外は泥で汚れ、このままでは心許無い。 ソレも全てバッグの中にあるプリントや本の死守のためだ、これらが濡れては単位も流れる。 故に他が濡れてしまうのは仕方ないこと、と理解しているし納得出来ることでもある。 あるのだが。 「煩わしい」 視線を上げ、浮かぶ灰色の綿を睨んでみる。 しかし当然変化は無く、その返答は依然として水を大地へ振り撒くのみ。 無駄な行いだと知っている。 雨は天の恵み、無くては作物は育たず飲み水の確保も困難。 雨とは気象の一つであり、地球の循環器であり、空の機嫌。 人一人の行動でどうにかなるのもじゃない。 そんなこと、この星に生まれ二十年以上生きているのだから判っている。 しかし悪態を吐いたって良いだろう? 傘を差すこと自体、途轍もなく億劫に感じるのだ。 「しかし、本当にツイてない」
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