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ザ――ザザッ――……
小汚い部屋で、ボロボロのスピーカーからノイズが流れる。
そして、この世界を語った。
ガガ――……、この――は、きか――よ―――じょをま――れ――……
そこまで言ってスピーカーは声を発しなくなる。
隣に座り、フードを深く被り全身がマントに包まれている老人が、代わりに世界を語った。
「この世界は、これから機械によって秩序を守られます。……他の世界の人間は、自分達こそ正しいと思い、自分達で支配したから滅びました。よってこの世界は、どの世界より正しく、どの世界より強い世界です。私達人間は、機械を造る。機械は、世界に不要な物を排除してくれます。私達の住みやすい世界を創ってくれるのです。この、機械の世界こそ、もっとも……」
そこまで言って老人は語るのを止めた。
疲れたのだろうか。それとも続きを忘れてしまったのか。
老人は少しして、最後の言葉を締めくくった。
「……もっとも良い世界なのです」
「よく覚えていますね」
少女は感心して言った。
「覚えちまったのさ、何十年も隣で放送を聴いていたからな。……なあ旅人さん、あんたぁ、この世界を正しいと思うかい?」
老人は少女に問いかけた。
「……正しいと思いますよ。確かに不要な物はほとんど抹消されましたからね」
少女の言葉に、老人は笑った。
「確かにそうかも知れねぇなあ。不要な物――、“人間”はほとんど消えちまった。今じゃ滅多に出会えねえからな。死ぬ前にもう一度人間に会えるなんて、俺ぁ運が良かったよ」
老人は嬉しそうに笑った。
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